ここでは酸塩基平衡を理解する上での基本の話をします。
自分自身が酸になったつもりで、生成され、最終的に体外へ排泄されるイメージを持って下記を確認してみてください。
人間は生きていく上で絶えずエネルギーを産生する必要があり、その結果、酸が発生します。酸はH+を与えるものと定義されているので、作られた後に生体内に留まってしまった場合、H+が多くなり、結果としてpHが極端に低下します。
pHが極端に低下している状況では、多くのタンパク質が機能不全(失活)を起こします。そうするとタンパク質の働きで生きている人間は生きていけなくなります。よって、産生された酸は適切に生体内から絶えず排出される必要があります。
すなわち①酸の産生→②緩衝(生体内を自由に酸が体の中で影響がないように動けるように)→③排泄(揮発性の酸は肺から、不揮発性の酸は腎臓から)までの一連の過程が常に正常に動くことが必要です。このいずれかの過程が破綻してしまうと容易に酸塩基平衡異常が発生します。
以下に上記のステップの簡単なまとめを記載します。
①酸の産生
酸は食事と細胞内代謝の結果、作られます。食事の成分のうち、炭水化物と脂質の分解から揮発性酸が、タンパク質の一部から不揮発性酸が産生されることが原則になります。
しかし一部、病的な際に例外が認められます。例えば末梢循環不全で乳酸が産生される際は、炭水化物から乳酸が産生されることもあるので本来のルールから逸脱してしまいます。
②酸の緩衝
緩衝と聞くだけではイメージが湧きにくいですが、酸が産生されて排泄されるまでの間、生体内で可能な限り有害がないように存在するための働き全体を指します。主に重炭酸緩衝系が緩衝系の中で占める割合が最も多く、有名です。
しかし実は非重炭酸緩衝系もあり、複数の緩衝系をもち急激な酸の生体への負荷に耐えることができるようになっています。複数の緩衝系を用いて生体内の酸の変化を一定に保とうとしています。
なお、この代償反応は秒から分の単位で働きます。
③酸の排泄
揮発性の酸は肺から二酸化炭素として換気により排泄されます。もし酸性環境下において呼吸で調整する場合は数時間程度で完成することが多いです。よって代謝性アシドーシスの呼吸の代償は急速に行われるため、代償の式は1つで良いと考えられます。
不揮発性の酸により溜まったH+は腎臓からNH4+(アンモニウムイオン)として排出されます。尿細管腔内を強酸環境にしないかつ重炭酸緩衝系を用いることのできない尿細管腔で酸排泄の工夫の結果と言えます。また腎臓では、HCO3-の再吸収と、HCO3-の産生(NH3を作る過程で生じる)もになっているため酸排泄の要であることは言うまでもありません。
なお、酸性環境下において腎臓で調整する(代償反応)場合は72時間ほど最大で必要と言われています。呼吸性アシドーシスの腎性の代償は急性と慢性の2つのパターンがありますが、急性期はほとんど代償が働いておらず、慢性期は代償が効いている場合のため計算式も2つあると考えられます。
歴史的には、血液ガス分析でpH、PCO2が測定され、HCO3-がHE式で求めた値として使われていました。現在ではHCO3-とPCO2が測定されることでpHを推定することにも利用されています。
酸はいつでも皆さんの体の中で作られ、適切に排泄されているのです。
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