腎疾患の時間軸

入院管理

 今回は疾患の時間軸のお話をします.

 世の中はたくさんの疾患があり, 疾患毎に特徴があることは, みなさんもご存知の通りですが疾患により急性期管理からその後の慢性期管理は異なります. また疾患によっては急性期のみの管理を行えば慢性期は気にしなくても良い疾患もあります.

 例えば, 消化性潰瘍や急性心筋梗塞など疾患の影響は人によりますが, 消化性潰瘍であれば少なくとも数週間, そして, 急性心筋梗塞であれば最初の数日, それから数週間の急性期合併症発症リスクの経過をへて慢性心不全の管理へと移行していきます.

 さてこれを慢性腎臓病の時間軸について当てはめてみましょう. 慢性腎臓病の管理で考えるべき点は末期腎不全にどのような経過で移行していくかだと思います. GFR時計をCKDの管理の項で考えることは以前紹介しました. 健常人であっても腎機能は時計の針が進むかのように少しずつ悪化していくのです.

 では予見することはできるのでしょうか?実は患者がおかれている背景により臨床経過が異なることは皆さんも肌感覚でご存知とは思いますが, 過去に報告された論文の一部にこのような報告があり, 非常にイメージしやすく有益だなと思ったのでご紹介致します.

 下の図はCKDの原因別でGFRの自然経過を示したグラフになります. 縦軸はGFR, 横軸は時間(年)です.

 疾患の代表としては, 2型糖尿病, IgA腎症, FSGS, 膜性腎症, ADPKDの5つが表記されています.なお, 2型糖尿病, 膜性腎症, IgA腎症の部分にのみ小さく%表示がありますが, これはその疾患の患者全てを100%としたうち, この表の通りの経過をたどりうる患者の%表示をしたものです.

 

 参考:J Clin Invest. 2006;116(2):288-296. より

 このイメージを持つだけで, 今, 目の前の管理がいかに重要かをより具体的に意識できるのではないでしょうか?また患者さん自身に伝える情報もより具体的になり「見通し」を持ちやすくなると思います.

 例えば, 糖尿病はGFRはが低下し出したら急速に低下するのに対し, 膜性腎症などは比較的ゆっくりと低下する. また疾患別に末期腎不全に陥るまでの年数も異なるなどが明確にインプットできると思います.

 また緩和ケアを考える際にも有効です. 「常に目の前の患者に緩和ケアを」と言われていますが, 末期腎不全患者のトラジェクトリーカーブ(終末期の軌道と訳されることが多い)も参考にしやすいと思います. これは縦軸をFunctional ability:身体機能, 横軸を時間としています.

 ここには大腸癌, 心不全や末期腎不全患者, フレイルで認知症が認められる患者, 末期腎不全だけど透析を受けなかった患者の大きく分けて4つのパターンの経過を示したものです.

参考:Clin J Am Soc Nephrol 7: 1033–1038, 2012. より

 このように時間軸を考えることで, 例えば, 末期腎不全患者は時々の増悪と寛解を繰り返しながら死に近づくということが分かります. また, 透析を選択せずに経過をみた末期腎不全患者はある一定水準の身体機能を保ちますが, いざ悪化の過程になると, 急激に身体機能が低下して死にいたるということが予測されます.

 今後を予見するという力は, 慢性期管理において非常に重要と考えます.

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