血液ガス分析の方法はこれから何回かに分けて記載しようと思います。今回は1つ、「なるほどな」と思った話題です。
テーマはズバリ、「血液ガス分析がいずれも正常値である場合に考えること」です。答えはなんでしょうか?「正常」はもちろんなのですが、それ以外に可能性として何か考えられるでしょうか?
よくpHが正常でもAnion Gap(AG)を測定して隠れた酸塩基平衡異常を見つけようといいますが、ここではAGすら正常値の場合に何を考えるかです。
勘の良い方や既にご存知の方もいるかもしれませんが、答えは、「代謝性アルカローシス+AG正常の代謝性アシドーシス」 の合併です。いろいろなパールが詰まった論文にさらっと書いてありました。書いてあればなるほどと思うのですが、意外と類書に見たことがない記載だなと思い、書き記しました。
参考にした文献の該当箇所の一部抜粋です。
表:正常から混合性酸塩基平衡異常
参考文献:Simple and mixed acid-base disorders: a practical approach
Medicine (Baltimore) 1980 59(3) 161-87
縦軸はpHや電解質などのパラメーター、横軸は向かって左から順に正常値、AG上昇型代謝性アシドーシス、代謝性アルカローシス+AG上昇型代謝性アシドーシス、代謝性アルカローシス+AG正常代謝性アシドーシスとなっています。
この表のNormal と Metabolic alkalosis+Normal AG metabolic acidosis最初と最後の状態の血液ガスデータがほぼ正常というのです。
機序から考えると、代謝性アルカローシスはHCO3-が作成され、AG正常型代謝性アシドーシスはアニオンが新たに産生されるのではなく、純粋にHCO3-が消費されて、電気的中性を保つためにClが増加する病態だったので、HCO3-の増加分と消費分がほぼ釣り合いが取れることで起きうる現象でしょう。
代償のみではpHを超えることはないと言われていますが、2つの要素が同時に起こっている場合、すなわち代償ではなく、酸性に引っ張る要素とアルカリ性に引っ張る要素がいずれもある場合は、綱引きの結果勝敗つかず即ちpHが正常であることもありうるということです。
そしたらここで次の質問が浮かびます。
問:正常値 vs 代謝性アルカローシス+正常AG型代謝性アシドーシスの見分けるポイントはどこにあるのだろうか?
重要なのは病歴と身体所見です。
単なる正常値の方は特に自覚症状もありませんし、他の他覚的な異常は認められません。一方で上記の混合性酸塩基平衡異常が認められる場合は、例として嘔吐と下痢を同時に起こしている場合に、偶然にpH含めた他の正常値が正常となることが想定されます。またそれぞれの程度に応じて、アルカレミアになったりアシデミアになったりすることが予想されます。この論文では具体的な病態を軸にKの要素なども加えて解説されているので詳細は本文を見てください。
やはり血液ガス分析は奥深いなと思った1日でした。
もちろん最重要ポイントは、血液ガス分析を実際に計算して満足するだけではなく、計算した結果、想定される病態が目の前の患者にあてはまるか十分に吟味し治療方針に良い影響を与えることができてこそ、即ち、血液ガス分析の結果を患者に還元してこそ意義があったと言えるでしょう。
①正常値
②AG正常代謝性アシドーシス+代謝性アルカローシスの合併
コメント