質問:ジギタリス中毒患者にグルコン酸Ca投与は禁忌でしょうか?
高K血症の治療薬として最初に使用される機会の多いグルコン酸Ca IVですが、ジギタリス中毒患者には禁忌と言われています。
本当でしょうか?この質問に答えるためには、ジギタリスの効果の理解とStone Heart Theoryとの関連を知る必要があります。
ジギタリスの作用機序
主な作用機序は、心筋細胞表面のNa/K ATPaseポンプの阻害により①-③のことが起きると考えられます。
①細胞内のNa→ Na依存性Caの筋細胞外への輸送ができない→ 細胞内Ca濃度の上昇→ 強心性、自動性上昇
②Na/K ATPaseポンプによるKの細胞内への輸送が減少→高K血症
③洞房結節や房室結節の活性を阻害→徐脈や心ブロックの発症
**脂質二重膜にCaチャネルを形成し、細胞へのカルシウムの侵入を調整している可能性もあります。
Stone Heart Theory という定説
ジギタリス使用者の細胞内Caは高い状態にあります。加えてさらにCaを投与することにより、総Ca量が増加することになります。
Caの存在により、Ca-トロポニンC結合による拡張期の障害により、不可逆的な非収縮状態を引き起こす可能性があると考えられています。
さらにCaが過剰であることにより、脱分極の遅延を引き起こし、不整脈を誘発する可能性もあると考えられています。
これまでのエビデンス Pro
・動物実験でCa上昇はジギタリスの毒性の増強の報告
・人においてもジギタリス中毒患者に対するCa投与での死亡の因果関係にまつわる症例報告
・上記の結果に加えてStone Heart Theoryの存在
これまでのエビデンス Con
現在は多くの情報が不正確であることから、Stone Heart Theoryに関しては懐疑的です。
・ジゴキシン中毒の患者にCaを使用しても、何の影響もなかったという症例報告があります。
・ジゴキシン中毒において、Ca投与と死亡の時間的関係を示唆する症例報告は5例ありますが、時間的関係が強いのは2件のみで他は下記理由により因果関係ははっきりしません。
①論文が古い(主に1930年代と1950年代のもの)
②ジゴキシン中毒の症状の記述がない
③ジゴキシン値の測定なし
・ジゴキシン毒性を模倣した動物モデルでは、副作用を示すことができませんでした。
例:ブタモデル(n=12)を用いた急性ジゴキシン毒性による高K血症のCa治療
・当初の動物モデルには欠陥がありました。
毒性作用は、ジゴキシン投与前に動物を重度の高Ca血症(Ca≧15mg/dl)にした場合にのみ発生した
・ジゴキシン毒性はしばしば重篤な併存疾患の指標となり、死亡はジゴキシン毒性またはその治療とは無関係である可能性がある
事実はどこに?
Levineらは、後方視的研究において、カルシウムを静脈内投与された慢性ジゴキシン毒性患者において、致死的な不整脈や死亡率上昇の証拠を見出すことはできませんでした。
現時点では懐疑的です。しかしながら、現時点でもグルコン酸Caの添付文書に併用注意の薬剤としてジギタリスがあげられており積極的には使用しないという対応になるかと思います。
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