症例 65歳男性, CKDG3aで当院通院中. 血圧158/80mmHg, 自宅での血圧も収縮期血圧が160台で推移
さてこの高血圧はどうしましょうか?治療しますか?
CKDの治療に関しては①腎機能の低下を抑制するために管理するものと②合併症に対するものがあり, 高血圧の管理は①のために行う.
では治療介入する基準はなんだろうか?治療の目標は?
まず知っておくこととして,
血圧の目標値は時代とともに変化する
今の目標がそのまま続くということが通用しないのが高血圧の目標値で言えます. SPLINT試験などが良い例だと思われます.
ただしCKDに限ってはエビデンスは少ないです.
①糖尿病の有無を確認し, ②尿蛋白の有無を確認するという2×2の表で対応します.
これは治療の目標が異なってくるためです.
糖尿病(+) | 糖尿病(ー) | |
尿蛋白(+) | ・Δ収縮期血圧10mmHg低下 → 腎不全12%減少 ・Δ収縮期血圧5mmHg低下 →心血管イベント抑制 ・RAS阻害薬の使用(vs 他の降圧薬) →GFR低下の抑制 ・RAS阻害薬の使用(血圧低下に関わらず) →GFR低下の抑制 | ・110<収縮期血圧<129 →GFR低下の抑制 ・尿蛋白>0.5g/日でACEIの使用 →GFR低下の抑制 ・尿蛋白陽性患者は血圧の値に関係なくRAS阻害薬の使用 →GFR低下の抑制 ・進行したCKD患者へのRAS阻害薬の使用 →GFR低下の抑制 |
尿蛋白(ー) | ・収縮期>130mmHg →GFR低下 ・血圧を下げる → ×GFRの低下を抑制 ○死亡率を低下 |
上記の表を理解するために高血圧と腎臓の関係についてお話しをします.
なんらかの腎障害が起こると, ネフロンの数が減少し, 代償のためにRAA系や, 交感神経系が亢進し正常の糸球体の濾過率が上昇します(結果, 血圧高値となります). 漫然と活性が亢進した状態は炎症やリモデリングを促し腎硬化が進行します. この負のスパイラルが繰り返されるのです.
なお, 日本(CKD診療ガイド2018)と米(KDIGO2012)のガイドラインを比較として示します(推奨は省略しているので元文献を参照).
項目 | 日本 | 米国 |
目標値 | DM(+): <130/80mmHg DM(ー): A1 <140/90mmHg A2,3 <130/80mmHg sBP<110mmHgは避ける | DMの有無にかかわらず A1 <140/90mmHg A2, 3 <130/80mmHg |
高齢者(75歳以上) | <150/90mmHg | 個別化のみ |
薬剤の選択 | DM(+): RAA系阻害薬 DM(ー): A1 RAA系阻害薬, Ca拮抗薬, 利尿薬いずれか A2,3 RA系阻害薬 | DMあり A2以上で RAA系阻害薬 DMなし A3以上で RAA系阻害薬 |
注意点 | G4,5ではRA系阻害薬の副作用に考慮しCa拮抗薬への変更を検討する. | 起立性のめまいについて評価コンプライアンスまで考慮して個別化する. |
表題の患者の治療は糖尿病と尿蛋白の程度を確認し, 最初に非薬物療法(運動, 食事, 禁煙)を行った上で<130/80 ないし<140/90が達成できなければ降圧薬開始となるでしょう.
まとめ
・CKD患者の高血圧はGFR低下の抑制に繋がる可能性が高いので介入する.
・最初にDMの有無, 尿蛋白の有無を確認して非薬物療法から介入を始める.
現時点で参考となるもの:Hypertension in CKD: Core Curriculum 2019
CKD患者の高血圧の病態の補足
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